−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 経営陣にこの投資にゴーサインを出させたのが、高津氏ら企画チームのプレゼンである。一枚の絵で思いを伝えようとした。メガブランドづくりには、パワーマーケティングが不可欠であることを強調した。 「ひと目で業務の流れと戦略がわかるように、文字は少なくシンプルにした」と高津氏は話す。 その戦略のポイントはひと言で言えば、いい製品を多額の宣伝費を投じてメガブランドに育てるということだ。「明確な商品コンセプトがあるかどうか、これが成功の明暗を分ける」と、高津氏と強調する。 もっとも、そのコンセプトづくりの前に、高津氏は経営戦略と整合させることも、忘れてはいない。かつてはシェア二位だった資生堂のシャンプーのシェアが四位と低迷していて、起死回生策が必要だった。資生堂では、シャンプーを扱う全額出資子会社のエフティ資生堂のマーケティング部門を本体に吸収し、シャンプーも化粧品同様、企画から販促・宣伝を一貫して行う体制に変わった。経営陣に対して売上や利益目標をコミットメントできれば、投資予算を拡大できるという流れを高津氏は見逃さなかった。「トップスリーの一角に入らなければ起死回生はない」。その危機感を、シェア推移を表にして訴えた。 説明はシンプルに紙に書き出し案を練る トレンドの流れの説明では、「日本人女性が世界に誇るもの」のアンケート調査を添付した。トップが髪だったのだ。そのうえで、「シャンプーがいまや、日用品にとどまらず、化粧品のようなイメージ商品になっている」と結論づけ、イメージを打ち出すための大型宣伝の必要性を訴えた。 資料は仮説のみならず、それをデータで検証して見せ、説得力を持たせている。「紙に書き出しながら、ポイントを絞り出している。経営陣にはシンプルな説明の方が印象に残る」。 一瞬で商品のコンセプトの”椿”を印象づけるために、赤色をうまく使っている。 「ひと目でわかるビジュアルで、これに賭ける情熱をアピールすることが勝負と考えた」と、高津氏は役員を前にしたプレゼンを振り返った。
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−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 同氏は二〇〇四年に発売された緑茶飲料「伊右衛門」の企画をまとめ上げたチームリーダー。「伊右衛門」は福寿園という茶葉の老舗の創業者の名前を使ったネーミングと、話題性のあるCMで大ヒットし、いまや年間一〇〇〇億円の売り上げを誇る。 沖中氏は二〇〇二年から「伊右衛門」の開発に携わったが、その前の「熟茶」では生産ラインに大型投資をしたのにもかかわらず、計画の半分も売れず、辛酸をなめた。捲土重来を期した沖中氏はまず、お茶の原点に戻る。「ずっと飲まれているのに、お茶はメーカーの都合でしか作られていない」。 そこで考えた方法が二つある。茶の風味を損なう高温での殺菌をやめ、非加熱無菌充填の製造方法を採ることと、茶葉のメーカーの老舗、福寿園と提携し、求める味に合う茶葉を供給してもらうことである。前者は製造ラインの大型投資を要求しなければならず、後者は提携への同意をもらわなければならない。 「経営者をインスパイア(感動)し共感を持たせ、”やってみなはれ”と言わせる。これには思いを伝えるしかない」 抽象的だが、その手段の一つが言葉である。短く端的で明快に商品コンセプトを表す言葉――。 考えに考え続けた結果、生まれたのが「一〇〇年品質、上質緑茶」だったのである。 創業時のポスターも使用 経営理念と絡めて訴える このときのプレゼン資料には、サントリーが初めてウィスキーを発売したときのポスターも付けた。「生活文化をつくってきたサントリーが、日本人のDNAの一部になっているお茶で、本格的なものを作っていないのはいかがなものか」と、企業理念に絡めて訴えた。 ターゲットもこれまでと変え、男性サラリーマンに絞り込む。消費者調査の結果を踏まえて、緑茶飲料のユーザーは、OLよりもサラリーマン男性が増えていることを指摘。会社のお茶くみが減り、自分でお茶を買って飲む時代になっている、と分析した。 「事業部長など上司がまさに購買ターゲットになるため、味方につけやすかった」と笑う。 他方、「伊右衛門」のネーミングは福寿園の創業者に由来するものだが、福寿園に提携を持ちかけた当初は「うちは事業ではなく家業や。のれんをつないでいくのが仕事」とにべもなく断られた。 にもかかわらず、提携にこぎ着け、創業者の名前の使用も認められたのも、お茶に対するこだわりを伝えたからだ。既存の緑茶飲料では採用されていない非加熱無菌充填の製造方法を採る意気込みを伝えていったのだ。 それもシンプルな図で、サントリーと福寿園を同じ大きさの丸で描き、伝統や強み、こだわりを書いただけである。だが、そのシンプルさがかえって相手の興味を引き、茶や伝統に対するこだわりや企業理念、自分の思いを話すきっかけにつなげていった。
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