−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 何でもかんでも調べるのではなく、知りたいことだけを調べる。なぜ、戦略商品が売れないのか。なぜ、死に筋商品が多いのか。なぜ客層が想定と違うのか――。このように知りたい点を絞り、明確にする。製品や技術が特許で守られたメーカーと違い、小売業では自分の店に欠けた競合店のよさを見つけ、売り方やその背景にある考え方を恥ずかしがらずにまねるのが重要になる。時間、お金、人手をかけないのも調査の大原則になる。コストをかけて大量のデータを集めて分析してみても、新規出店や全面改装などに生かすならともかく、日常業務への即効性はない。 大事なのは、正社員でなくアルバイトでも短時間で簡単にできる調査を継続することだ。午前中に調査して、午後には結果を出すぐらいのスピード感を持つのが望ましい。やりっ放しなら意味はなく、結果をみてその都度必ず手を打つ。何度か検証してはじめて、なぜ売り上げが伸びたか、減ったか、対策が功を奏したか否かなどの理由が見えてくる。 では具体的に競合店の何を調べればいいのか。それは、重点商品を一つ調べるだけでもいいと言える。重点商品だけでも店の戦略や力量がわかり、自社店舗に取り入れるべき点が見えてくるからだ。 例えば、夏にスーパーや青果店を調査する場合、毎年定番のスイカ、あるいは今年話題のマンゴーなどを対象にする。スイカであれば、品種数や数量、丸ごとカットか、価格、棚の大きさや場所、お客の反応などの項目をチェックする。購入して味をチェックすればなおいい。慣れれば数分で調査できるため毎日でも続けられる。 商品が多様化する昨今、重点商品だけでは不安に感じるかもしれないが、POSデータを見ると、業種にかかわらず売れ行きは上位商品にシェアが集中している。小売業では、一番売れる時期に一番いい商品をどれだけたくさん売るかが勝負を分ける。競合店と違う商品で差を付けるよりも、売れ筋商品の競争力を高める方が得策だ。 調査項目や評価基準を定める際には、アバウトな発想も大事になる。調査というと100%の正確さを求めるイメージがあるが、絶対の基準などあり得ない上、店舗を取巻く環境も時々刻々と変化する。とりあえずの基準でまず始め、必要に応じて修正したり、詳しくしたりしていけばいい。 調査のためにいざ競合店に入ったら、どんな点に留意すべきか。それは、お客、調査者、社会人の三つの視点から見るよう心がける。 商品を買うか買わないかをどこで判断するかは、本当に買うつもりになってお客の目で見れば理由が一番よくわかる。商品の価格だけではなく、品ぞろえや味、店の清潔さや定員の対応、商品の探しやすさや、レジの混み具合、あるいは駐車場の使い勝手など、実は理由は様々だ。価格が極めて重要な要素なのは間違いないが、「価格がすべて」という考えは危険だと認識すべきだ。 重点商品が目立つ場所にあるか、品ぞろえが客層に合っているかといった店の強さや弱さ、課題を探る調査の専門家の物の見方も必要になる。こうした項目を個条書きにした「売り場チェックシート」をつくって常備し、競合店と自社を定期的に比べれば効率よく調査できる。 肝に銘じるべきは、買い物客の迷惑になりかけない売り場でのメモ取りや写真撮影はご法度という点だ。どうしてもメモを取るならば、お店の外に出てからにすべきである。できれば”見学料”として何か買い物もして帰る。調査時は、社会人としてマナー違反を侵さないように気を付けたい。
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−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 市場が多様化し、目覚ましいペースで変化する。顧客が求めるニーズも複雑多様で、とらえにくい。食品一つにしても、おいしさや安全はもとより、「癒やし」「時間節約」などのTPOや個人によって様々なニーズがあり、「購入ボタン」を押す動機は複雑に絡み合っている。 商品へのニーズをつかむだけでは十分ではない。価格、販促、流通のマーケティングミックスに加え、顧客と永続的な関係を築くシステムまで考えた取り組みが必要だ。さらに、従業員、株主、提携先、官公庁、地域社会など、考えられるすべての関係者を視野に入れなければ、企業の持続的発展は果たせない。 マーケティングリサーチの役割は、企業戦略の立案や様々なアクションに際し、意思決定に役立つ情報を提供する「ビジネスナビゲーション」だ。企業を取巻く環境の現状把握と将来予測から、すべての関係者に恩恵をもたらす方向性を見いだすには、勘に頼らない客観的情報が必要だ。 マーケティングリサーチの課題は複雑化し、スピーディーな解決が求められるようになってきている。加えて、情報通信技術の進歩に伴い、リサーチ技術も進化している。アンケートの方法だけでも、面接、郵送、電話に加え、インターネット、携帯電話、FAX、地上波デジタルテレビなど多様だ。時と場所を選ばず、スピーディーにリサーチができるようになる一方、綿密な企画なしに安易に行われる傾向もある。 数さえ集めれば統計的な結果が得られると考えられるのは危険だ。パーセントが付いた数字には人を信じさせる魔力があるが、どんな方法で、どんな質問を、どんな対象者に行うかで結果は異なる。多数を調査したものの、肝心のターゲット層が含まれていない「ピント外れ調査」、結果が出るのは早いが内容がいいかげんな「チャランポラン調査」、高度な統計解析テクニックを駆使して乏しいデータをほじくり返している「テクノおたく調査」――では誤った判断を招く。 マーケティングを成功させるには、目先の問題に追われず中長期的な視野で自社の課題をみきわめる見識、課題に応じた適材適所のリサーチ手法を使い分けるスキル、リサーチ結果をももとに実行可能な対策を立案する知恵と実行力が求められる。時に応じて、素早く低コストで行う「ファストリサーチ」と、じっくりと時間を時間とコストをかけて情報を集める「スローリサーチ」の使い分けも必要だ。
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